最高裁判所第二小法廷 昭和40年(オ)897号 判決 1968年2月02日
上告人
小松正次郎
被上告人
前川良雄
被上告人
前川久太郎
右両名訴訟代理人
坂本好男
主文
原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
理由
上告人の上告理由第二点について。
原判決は、昭和二五年六月三〇日にした本件物件の譲渡担保は、破産会社の危殆状態における唯一の不動産の担保供与であるけれども、右担保供与は破産会社の従業員の給料支払資金三〇万円の借入の条件として債務負担と引換にされてその借入金は破産会社へ交付され、当時会社は給料の延滞があつて、その調達は他の方法では不能と思われる状態であり、しかも、従業員の給料債権は先取特権によつて保護された優先債権で、従業員の延滞給料の支払は会社の運営上必要欠くべからざる人的資源を確保するためもつとも緊要な支出であることに鑑みると、その行為は、借入行為と関連せしめてみれば、右担保の供与は必要資金獲得のための正当な行為であつて、一般債権者に対する詐害の意思はないものと認められるから、その担保提供は破産法七二条一号にもとづく否認の対象にならない旨を判示している。
しかし、本件物件の譲渡担保が、原判決の判示するとおり、先取特権のある従業員の給料債権の支払に充てる資金の借入として破産会社の必要資金の獲得のためにされたとしても、破産法七二条一号に基づく否認権の行使を否定するためには、特別の事情のないかぎり、譲渡担保の目的物件の価額とその被担保債権額との間に合理的均衡の存することを要するものと解すべきところ、原判決は、元金三〇万円(利息一割)の貸金債権の担保のために本件物件が譲渡担保に供された事実を確定したのみで、本件物件の価額を確定せずに、前記の原判決の事実関係から、本件否認権の行使が全部許されないと判示したのは、法令の解釈・適用をあやまつた結果、審理不尽の違法をおかしたものというべく、この点をつく論旨は理由がある。
よつて、その余の論旨に対する判断を省略して、原判決を破棄して本件を原審に差し戻すこととし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)